novel-railwayのブログ

以前投稿した小説記事をこちらでアップしていきます。

餘部橋梁物語、その後 第7話

さて、こちらは酔いつぶれて寝てしまった猫尾、まさか女将の店で寝て居るとも知らず・・・


結局、猫尾は朝方まで目が覚めることもなく爆睡したのでした。


「ああ、よく寝た・・・」と手を伸ばすとどこかいつもの自分が住む4畳半の部屋とは雰囲気が違います。


おかしいなぁと思いつつ、振り返ると隣にはもう一組の布団が畳まれてありました。


 「お客さん、お目覚めかい。」


その声に振り返る猫尾


「お、お、おお、は、は、はようございます。」


緊張するとどもる癖のある猫尾はどもりながら挨拶をします。


 「あら、猫さんお目覚めかい。」


女将が猫尾に話しかけます。
猫尾はここで状況が初めて理解できたようです。


「お、お、女将、す、す、すまねぇ。」
「よ、酔いつぶれて寝てしまったのか?」


「お、女将、す、すまなかったなぁ。・・・だ、だんなさんにもよ、よろしく・・な。」


猫尾にしてみたら、まさか女将の店に泊まったことの恥ずかしさと、孝を女将の旦那と思い込んでいますので、女将にしてみたら、旦那と言われて(・_・)なんですね。


旦那?・・・誰のこと・・・思わず孝を見る女将、それを目で追う猫尾を見て、女将も合点したのでした。


 「猫尾さん、孝は私の従弟だよ。」


猫尾は思わず聞き返します。
「え?旦那じゃないのかい・・・。」


孝も苦笑して、「浩ちゃんは、僕の母方のおばさんの子供なんだ、それに僕は結婚しているしね。」


それを聞いて恥ずかしいやら、ちょっと嬉しく思うやら・・・。
一気に場が和み、女将は再び猫尾に声をかけます。


猫尾さん、せっかくだから朝ご飯食べておいきよ。
孝ちゃんも、家に帰るからね。
餘部に駅が出来て汽車が止まると言うので山奥から半日かけて出て来たんだよ。
昨日は夜遅くなるからということで、うちに泊まったという訳でね。


そんな風にいきさつを話す女将に、自分の勘違いを恥じ入るのでした。


さて、そんなわけで簡単な朝食でしたが猫尾と孝、それに女将の3人で食卓を囲んで食べ始めるのでした。
元々、喋るのが苦手な猫尾は寡黙に食べているのですが、孝は結構話をするのが好きなようで、積極的に猫尾にも話しかけていきます。


 「そういえば、猫尾さん、浩ちゃんが好きなんですか?」


浩ちゃんといわれて目をパチクリさせる猫尾に、「女将のことですよ」


さらに、「猫尾さん、昨日浩ちゃんにプロポーズしてたじゃないですか。」


気の毒に酔った勢いで言ったカミングアウト、本人は覚えているわけではありません。


「そ、そ、そんなこと、い、い、言ってないぞ・・。」と言いながら顔を真っ赤にする猫尾


それを見て、ちょっとだけ悪戯心が起こった孝はある行動に出るのですが・・・ということでまた次回のお楽しみにしたいと思います。


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餘部橋梁物語、その後 第6話

女将と一緒に居たのが旦那ではないことが判ってホッとした猫尾ですが、今度は仕事仲間の武井が女将を口説くのではないかとやきもきする猫尾でした。
武井にしてみれば、軽い冗談だったのですが、猫尾の様子が面白いのでちょっと悪戯を仕掛けていたのでした。


猫尾の様子をうかがいながら冗談とも本気ともつかない冗談をいう武井、最初は全く無視していた女将でした女将もこの人は本気で言ってるのかしら?と思うのでした。


その都度、猫尾にそれとなくサインを送るのですが・・・残念。
そうしたことにまったく疎い猫尾は、武井が女将と話しているものだからすっかり拗ねてしまって。
一人やけ酒を飲んでいるのでした。


女将が、「猫尾さんそんなに飲んだら体に毒だよ・・・」


そんな言葉も今の猫尾の耳には入らないようです。
子供のように拗ねてひたすら飲み続ける猫尾、そんなに酒に強い訳ではないことは女将が一番よく知っていりのですから。


相変わらず、武井は女将にちょっかいを出しています、その都度チラチラと猫尾の方を見る女将を見て、女将も猫尾に惚れていることを察した武井でしたので、女将に耳元で囁いたのでした。


 「おかみ、猫尾に惚れてるだろ・・・。」


急に顔を真っ赤にして俯く女将
それでも、猫尾はそんな様子に気付く様子もなく・・・、そうこの時にはもう猫尾は酔いつぶれて寝てしまっていたのでした。


親方は人夫たちと盛り上がっており、猫尾のことなどすっかり忘れているようです。
やがて時計は9時を指していました。


都市部では9時などは宵の口ですが、田舎にしてみればもうそれこそ深夜に近い時間
女将が、親方に告げます。
そろそろ看板なんだけど・・・。


おお、そうか、すまんなぁ。
幾らだ、・・・。


親方は、店の支払いを済ませると人夫たちに声をかけます。
人夫たちは口々に親方に礼を言っています。


親方も顔を真っ赤にしながら、
「良いってことよ。明日から、また頼むぜ・・・。」


「おい、猫、帰るぞ…」
そう叫んで猫尾がいないことに初めて気づく親方。


おい、猫はどうしたんだ・・・。
始めて猫が酔いつぶれていることに気付いた親方、もう一度店に戻り猫尾を起こそうとします。
「猫、猫、・・・」


猫尾は寝ぼけて、「女将、愛しているよ・・・」


寝ぼけながら親方と女将の前でカミングアウトしてしまった猫尾、親方も苦笑して、


「女将、すまないが酔いがさめるまで寝かせてやってくれないか」


女将も、ちょっと困ったねぇと言う顔したもののまさか店に寝かせるわけにもいかないので、店の奥の部屋に寝かせることにしました。


 「孝ちゃん、ちょっと狭いけど一緒の部屋で寝てね。」


女将が孝に言います。
孝も苦笑しながら、頷くのでした。


孝と親方で猫尾を店の奥の座敷に寝かせ。親方はそのまま帰っていくのでした。
既に店の外には誰もいません。


空を見上げると満月が丁度夜道を照らしています。


猫尾の奴、女将の惚れておったのか。
親方はにやにやしながら、何とか二人を夫婦にさせてやろうと改めて思うのでした。


続く

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餘部橋梁物語、その後 第5話

親方は人夫を含め8名ほど引き連れて女将の店に入っていきます。
10人も入れば満員御礼の小さなお店は、もう貸し切り状態


 おー、女将、酒をだしてくれ・・・。
 今日は俺のおごりだから、・・相変わらず威勢のいい親方です。


「あら、いらっしゃい、親方・・・。」
「あらあら、たくさんのお客さん、今日は貸し切りの看板上げておかなくちゃね。」


女将がうれしそうに笑います。
女将の陰に隠れていましたが、いとこの孝が包丁を握っています。
世話になったお礼にと今日だけお手伝いをしていたのですが・・・。


猫尾にしてみれば大事件ですよね。


 猫尾は、朝のことがあったのでまだ迷っていました。


店の中から親方の声がします。
 「猫、猫、はやっく入ってこい。」


親方の野太い声が響きます。


仕方なく猫尾は暖簾をくぐり店に入っていきました。
さほど広くない店ではカウンターはほぼ埋まり親方の隣だけがぽつんと空いています。


猫、ここで座れ・・・。


親方は猫尾に横に座るように言います。
仕方なく横に座る猫尾、女将が愛想笑いを浮かべながら


「猫さん久しぶりね。」
「今日ね、駅に汽車が着くのを出迎えたのよ。」


笑いながら女将が猫尾に話しかけます。
猫尾はちらっと女将の顔を見ると、女将の後ろに孝が立っていました。


猫尾はもちろん孝のことを知りませんから、きっと女将の新しい旦那だと勘違いしたのです。


猫尾は「女将・・・」とここまで口に出かけたのですが、そのまま口ごもってしまうのでした。


女将はそんな猫尾に気付いたのか気付かないのかそのまま。親方に話しかけます。


「親方、熱燗でいいかい?」


 「おう、熱燗で頼むわ。お銚子6本取りあえずつけてくれ・・・。」


女将が孝に燗をするように頼みます。


「孝ちゃん、熱燗お願いね。」


それを聞いた猫尾は勝手に、女将の新しい旦那と親しいんだと勝手に思い込んで落ち込んでしまいます。


女将はそんな猫尾には気づかず、小鉢を出していきます。
そろそろ、熱燗も上がる頃でしょうか。
何本かまとめて女将が親方に徳利を渡します。


厨房では孝が忙しそうに働いています。
ちらちらと見える孝に、親方も勝手に女将の新しい旦那だと思っていました。


ある程度酔いも回ってきたころ、親方が女将に聞いています。


 「女将、どこで良い旦那見つけて来たんだい?」


女将は、何のことかさっぱりわからないと言う顔をしています。


今度は、武井が女将に聞きます。
 「奥で働いている男は女将の旦那なんだろう?」


そう言われて、大笑いする女将
「何言ってるんだい。孝ちゃんは旦那じゃないわよ。」
「私の母方の親せきで、汽車が通ると言うので山の中から出てきたのよ。」


「明日は帰るんだけど、今日はせっかくだからお店手伝ってもらったのよ。」


女将は屈託ない笑顔で答えます。
 「本当に旦那じゃないかぇ。」


武井が聞き返します。
 「そうか、俺、女将と夫婦になろうかな・・・。」
冗談とも本気ともつかない武井の発言にやきもきする猫尾でした。


内心では、女将の旦那では無かったと、安堵するとともに、武井が女将に言い寄ったことにちょっと嫉妬の心を持ったのです・・・・。


そんな嫉妬の目を向ける猫尾の姿を意外と女将は見ていたのです・・・。
しかし、女心に疎い猫尾はそんなことに気付くすべもありません。


朝見かけた男は女将の旦那では無かったけれど、今度は武井が・・・・あいつは口が上手いからなぁ。


そんな中で猫尾は武井の動きばかり気になって酒を飲むどころではありません。
武井が女将に話かけるたびに気になって仕方がないのです。


ああ、ここでも気の毒な猫尾は一難去ってまた一難


二人の恋はどこに向かって進むのでしょうか・・・。
この続きはまた後程語りたいと思います。

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