novel-railwayのブログ

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鉄道公安官物語 第26話

白根は、初乗務で思わず置引きの常習者と遭遇、自殺志願者を未然に助けるなど普通ではありえない展開・・・(まぁ、脚色しているから当然だろうと言う突っ込みは無しで)ではありますが、こうやって色々と経験をつんで一人前の公安官になっていくのでしょうね。)


私も警察官だった頃は、警察学校で教わったことがすぐには使えず、いろいろ実践していく中で自然とできるようになることもあったのですから、どんな仕事も実践的勉強は避けて通れないのでしょう。


南部を発車した列車が田辺駅につくまでのしばらくの間、一人の男に対して涌井、白根、そして車掌長の坂田の3名が取り囲む異様な状況でした。


当時は、海岸線を走る旧線でしたから田辺につくまでに時々海岸線を走ります、時には海風に乗せて磯の香りが鼻をつくのですが、今はそんな風情を楽しんでいる余裕もありませんでした。


やがて、列車は田辺駅のホームに到着、ホームには駅員と田辺に常駐していた公安官が待っていました。


車掌長と涌井は男を連れてホームに降り立つと田辺駅に待機していた公安官と二言三言話したあと、待機していた公安官と一緒に駅事務室に消えていきました。


不安になったのは白根の方です。


一緒に行くほうがよいのかそれとも・・・・


そんな不安な気持ちを察したのか、車掌長の坂田が声をかけます。


「ありがとさーーん。」


なんていいませんよ。(このネタわかるのは関西だけかな?坂田師匠ごめん)


「心配要らないよ、この駅では25分ほど停車するし公安官が戻るまで発車は見合わせることもできるから。」


そんなことできるの?と思いながらも列車発車までの時間はたいそう長く感じたのでした。


 やがて、発車時刻が近づくのですが涌井の姿は見えません。


当直助役が、車掌長と何やら話していましたが、すでに時計を見ると出発時刻から5分ほど経過しています。


10分が経過しようとした頃、涌井が一人で戻ってきました、そして、しばらくするとDF50形ディゼル機関車の汽笛が響き渡り列車は再び闇の中を進んでいくのでした。


駅構内進行方向左側には田辺機関区が見え、扇形庫で休む蒸気機関車が水銀灯に照らし出されてなんとも幻想的な風景を演出しているのが見えました。


「おい、余所見ばかりしていたらだめだぞ。」


涌井先輩の叱責の声が背中から聞こえ、慌てて振り返る白根でした。


田辺で引継ぎした公安官は、涌井と鉄道学園の同期であること、男は置引きの常習犯で京都出身らしいと言った情報を教えられましたが、白根にしてみれば派手な捕り物はなかったものの、まさか自分がそうした逮捕の場面に遭遇したこと、また学園の授業では、容疑者に対する手錠を掛ける行為、【手錠を掛けることは、逮捕行為であるのでその扱いには十分注意を要する】といったことを実践で感じたのでした。


補足:現在は黒色の小型の手錠が主力ですが、私が警察官を拝命した頃はクローム鍍金された比較的大きな手錠で、ルパン三世の銭型警部のようにさすがに投げて手錠を掛けることは無いですが、捕縄と呼ばれる麻縄を常に別途所持しており、護送の際に利用するほか、暴れる場合は相手を拘束するためにも使いました。また、拳銃同様に貸与番号が刻印されていました。