novel-railwayのブログ

以前投稿した小説記事をこちらでアップしていきます。

鉄道公安官物語 第17話

おはようございます。
昨日は、FB国鉄があった時代に投稿したところ2000人以上の方に見ていただき100人以上の方からいいねをいただきました。
正直、これだけ訪問者が増えると嬉しい反面、もっともっと楽しめるように努力しなくてはと改めて思う次第です。
さて、今回もしばしお付き合いください。


夜行列車に初乗務の白根は、先輩公安官の行動にすっかり感心してしまいました。
そこでそのときの会話を覗いてみましょう。
どんな会話だったのでしょうか?


デッキに佇む女性をみて声をかけた先輩の観察力にすっかり感心した白根は、先輩公安官である、涌井に尋ねました。


「先輩はさすがですね、咄嗟に目がいったのですね、それにしても足を伸ばして云々は知りませんでした、参考になります。」


と言いかけたところ、それをさえぎるように先輩が口をはさみます。


 「いや、あれは適当に言ったまでさ。」


白根は、(・。・)(眼が点)になってしまいました。単に口からでまかせだったと言うわけですよね。


「先輩、そんなことは無いんですよね?」


先輩は、ニコリともせず、一言


 「そうだ。適当にいっただけだ。」


面食らったのは白根の方でした。まさか、そんな・・・。


そう、先輩は白根をからかったのでした。しかし、本当のこの女性は自殺を考えていたのです。ただ、公安官に声をかけられたのでそれを思いとどまったのでした。


彼女は、学生時代から付き合っていた男性と先日別れたばかりだったのです。
彼女にとって彼は、最愛の人であり、一生一緒についていける人と信じていました。しかし、彼氏は大学を卒業後は一流と言われる会社に就職、やがて会社の上司からお見合いを勧められ、その結果彼女を捨てて、出世の階段を選んだのでした。


彼からの最後の言葉は、5年という二人の時間を埋めるにはあまりにも軽い言葉でした。


「別れよう、もう君と会うことは無いだろう。」


  「理由を言って、どうしてなの。」


「いや、理由は聞かないで欲しい、聞けばさらに君を傷つけるだけだ。」


  「いやよ、別れないわ。私にわかるように説明して。」


「さよなら、・・・・会社の副社長の娘と結婚を前提で付き合うことにしたんだ。」


「さよなら、・・・」


  「そんなの許さないわ・・・、」


叫んだ言葉は、闇に消え、おりしも降り出した雨は二人の思い出すらも流してしまうようでした。


彼女は泣きました、ひたすら泣きました。涙が枯れるのでは無いかと思うほど泣きました。
やがて泣き疲れた彼女は、彼の私物を処分していきました。


一緒に写っている写真はもちろん、歯ブラシ、枕に至るまでありとあらゆるものをごみ箱にそして、彼からもらった手紙、そして安い指輪も・・・と思って手が止まりました。


これは、彼に初めて買ってもらった指輪。安物だけど愛情のこもった指輪。


そう思うと自然と涙が頬を伝ってきます。


そっと、彼女は思い出に浸るように指輪を左手の薬指にはめてみました。
本当なら、私が彼からこうして結婚指輪を・・・そう思うとまた泣けてくるのでした。


そして、泣きぬれてあけた翌日彼女は一日何をする気力も起こらず、会社には体調が悪いからとそれらしい理由をつけて休むことにしました。


ただ、彼女の心は壊れやすいガラスのコップのようにいつ壊れるかもしれない状態でした。
彼女がこの列車に乗ったのも偶然でした。


ただ、この列車は別名「磯つり列車」として釣り客には人気のある列車でしたから車内は釣りを楽しむおじさんばかり、車内の雰囲気になじめずデッキに出てきたのでした。


時々聞こえる電気機関車が奏でる甲高くそれでいて物悲しく聞こえる汽笛が彼女のガラスのような心に響きます。


 「このまま死んでしまいたい。私が死んで誰が悲しむというの。」


 「彼のいない人生なんて、生きていく価値がない。」


彼女は、デッキから恐る恐る顔を出してみました、風が顔にまともにあたります。


今度は、足を伸ばしてと足を伸ばしかけたときに、ちょうど声をかけられたというわけなのです。


 彼女は、いきなり警察官に似た服装をした人から声をかけられたので慌てて車内に戻っていったのですがそこで彼女は新しい出会いをするのですが・・・。


この話は、またの機会にしたいと思います。


気が付くと列車は、鳳を過ぎて和泉府中に近づきつつあります。


この列車は、阪和線内はノンストップのため待避線のある駅、ある駅で区間快速や普通電車を追い抜いてきます。


いかにも厚化粧のオレンジの車体の電車は、ぼろい電車といえ一応蛍光灯がついているのでこちらよりも多少は明るく軽快に見えます。


しかし、大阪市内と異なり外にきらめく街灯の数は一気に減少し、暗い闇の中にポツン、ポツン・・・・。


寂しさを倍化させるように、汽笛が夜空に響くのでした。


「白根、公安の仕事はこれからが本番だぞ。和歌山過ぎたら寝台車を中心に警戒するからな。」


先輩公安官に言われて改めて気を引き締める白根だったのです。



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