novel-railwayのブログ

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鉄道公安官物語 第18話

白根たちの乗務している列車の様子を一緒に覗いて見ましょう。


> 「白根、公安の仕事はこれからが本番だぞ。和歌山過ぎたら寝台車を中心に警戒するからな。」
> 先輩公安官に言われて改めて気を引き締める白根だったのです。


白根たちを乗せた列車は、東岸和田も通過しまもなく熊取を通過しようとしていました。
熊取駅は現在のような高架駅ではなく、和歌山よりに小さな駅舎のある駅でした。
改札口には駅員が所在なく立っているのがちらりと見えました。そして駅舎の向こうには自転車預かりと書いた看板だけが白熱灯に照らされてぼんやりとですが見えています。
しかし、それ以外は何もないのです。光がないのです。


駅前の僅かな空間以外は畑と空き地が広がっているだけですから当然といえば当然なのですが本当に闇の中を走っているそんな感じなんです。


いまでこそ、海側には関空の灯りが、そしてりんくうゲートタワービルが見えますが、当時はそんなものは一切ありません。
多分デッキに立っていたらそのまま夜の闇の石炭袋に吸い込まれるそんな感じを受けるのではないでしょうか。


時折、眠気を断ち切るように「ピー・・・・・」


甲高い汽笛が闇を裂いていきます。
単調なそれでいて規則正しいジョイント音は、眠りを誘うメトロノームのようにも聞こえました。


カタタン・カタタン・カタタンタン・・・。
そして、少し明るく感じたと思ったら、和泉砂川もの駅を通過しているところでした。
ここを過ぎて次の和泉鳥取までがかろうじて町並みがあるかなと言う感じで、大阪と和歌山の国境の境界いえ、県境の駅、山中渓は本当に字のごとく山の中にあり、夜などは誰も降りる人すらいない、そんなところでした。そして列車は和泉山脈へ分け入っていくのでした。


おしまい・・・・。


じゃないって。


山の中を走るのですから、本当に何もありません。


白根は、先輩の涌井に言われて乗務員室で待機していたのですがどうも落ち着きません。


初乗務の緊張感がそうさせるのでしょうか、あれこれ思い悩むことばかりです。


車掌室の小さな落とし窓を開けて空を見上げてみました。
列車は国境を越えて、いえ県境を越えて紀ノ川平野が見下ろせる山脈の頂上付近を走っていました。


「綺麗だ・・・・。」


白根は咄嗟にそんな言葉を漏らしていました。


「ああ、なんと美しい夜空なんだ。天の川というけれど本当に空にミルクを流したように一面に星空が川のように天空に横たわっている。」


都会では決して見れないそれはとても綺麗な綺麗な夜空でした。


子供の頃に聞いた牽牛と織女の天の川伝説の話をふと思い出していました。


「天の川か・・・・」


そう言えば子供頃は笹にお願い事を書いて川に流したっけ・・・


子供の頃の楽しかった頃の思い出が蘇ります。


そんな時、白根が待機する乗務員室のドアをノックする音が聞こえます。
先輩公安官の涌井ではなさそうです。


さて、そのノックの主は誰だったのでしょうか。


それは、意外な人物だったのです。


この続きはまた後程に。

さて、このお話の続きは明日にでもさせていただきます。

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