novel-railwayのブログ

以前投稿した小説記事をこちらでアップしていきます。

鉄道公安官物語 第15話

列車は、天王寺駅のポイントをいくつも渡りながら南に向けてゆっくりと歩みを始めるのでした。
機関車の列車と言うのは、加速が極めてゆっくりで、現在の新幹線がホームを出る頃には100km/h近く出ている現在の新幹線などとは比べるべくもありません。
当時はそれこそ「走る汽車に飛び乗った」なんていう歌詞に見られるように、無理をすれば乗れないことはない・・・そんな時代でした。


実際、昔の写真は動画などでは動き出した汽車に小走りで走りながら駅弁を販売するシーンなどを見ることが出来ますよね。


ある機関助士では、駅弁売りが動き出す汽車に小走りに走りながら弁当を渡すと言ったシーンがあります。それくらい、ゆっくりとしたものでした。


駅構内を出て、しばらくすると美章園駅を通過します。
最終列車にはまだ間がありますが、ホームに立つ人影はまばらです。
その横を加速しながら通過していきます。
機関車がブレーキを掛けたのでしょうか、軽いショックが伝わって来ます。
そろそろ高架区間をおりかけたのだろう、ふと外を見ると南田辺の駅名がちらと見えました。


さすがは先輩、運転の様子で大体の場所もわかるのか・・・少し感心する白根でした。


さて、ここでちょっと924列車のお話をさせていただこうと思います。
白根たちが乗務している紀勢本線直通の快速列車(924列車)はホーム長さ【ホーム有効長という】の関係で途中の駅には全く停車せずに和歌山を目指します。


天王寺を出ると次の和歌山までこの列車は停車しませんので、車内では車掌が停車駅の案内をしています。


ちょっと耳を澄ませてみましょう。


毎度国鉄をご利用いただきありがとうございます。この列車は名古屋行き普通列車です、後ろ2両の寝台車は途中、新宮までの連結となります。
途中止まります主な駅と到着時刻をお知らせします。


和歌山23:36、紀三井寺 23:56、海南 0:03、加茂郷 0:12、下津 0:16、初島 0:22、箕島 0:27、紀伊宮原 0:33、藤並 0:39、湯浅 0:45、紀伊由良 0:57、御坊 1:10、御坊から快速運転で印南 1:34、南部 1:54、紀伊田辺、2:06、白浜2:28、周参見2:58、見江津 3:12・・・・延々と停車駅と時刻が放送されています。
最後に、なお、最後の方で、手回り品や貴重品には十分注意して欲しいことが放送で流れていました。
夜行列車の宿命として、「すり常習犯」への対処は避けられないものだったのです。【時刻は昭和49年の時刻表から引用】


悪いことをする人間がいなければ、われわれの仕事は無いのだが・・・そう思いながらも白根は自分たちの仕事は車内の治安を維持していく大切な仕事をしているんだと改めて思い直したのです。


気が付けば列車は、長居競技場がある我孫子を通過し、まもなく大和川を越えようとしています。
列車はほぼ最高速度の90kmに達していたのでしょう、次々と電柱が流れていくのが夜目にもわかります。
見るともなく、窓外を眺めていた白根でした。


「白根、そろそろ巡回にいくぞ。」


先輩の公安官が声をかけます。


 「はい。」



白根は、制帽をもう一度かぶりなおすと先輩のすぐ後をついていくのでした。
車内は、蛍光灯に取り替えられた車両もありますが一部は白熱電球のままのため、車内は薄暗く車内も禁煙ではないので所々から煙が舞って少し息苦しいくらいです。


薄暗い車内をとおり、3両目のデッキに足を踏み入れたとき、一人の女性がデッキに佇んでいます。
白根から見れば特段何と言う風景ではなかったのですが、先輩公安官はその女性の異常に気づいたのでしょうか、近づいていくのでした。


さて、このお話の続きは明日にでもさせていただきます。

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