novel-railwayのブログ

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鉄道公安官物語 第23話

海南駅で降りた、恋に破れた女性はどうなったのでしょうか。
女の涙と白根がどうつながって行くのか。
早速、物語を始めたいと思います。


現在時刻は午前1時、白根たちを乗せた汽車はまもなく御坊に到着するところです。


御坊は、和歌山から約60kmの地点であり、約1時間の道のりです。
ここは、田辺市に次いで大きな都市なのですが、鉄道が市内の中心部に鉄道が入ることを拒否したため、市外の中心部からかなり離れた場所に駅が設置されました。
結局それではあまり不便と言うことで開業したのが、紀州鉄道(当時の社名は御坊臨港鉄道)でした。


当然こんな夜遅い時間帯ですから紀州鉄道は運転していません、駅のホームにキハ603形という気動車が佇んでいました。


御坊でも何人かの人がこっそりと降りていきました。
数えられるほどの人数でしかありません、列車から降りた4人の男女はそれぞれに跨線橋を渡って改札へと消えていくのでした。


白根は見送るともなく見ています。


さて、白根たちが御坊駅に到着した頃、海南駅に降り立った先ほどの女性は一人公衆電話にいたのです。
どうしても、忘れられない思いから、出てはくれないと思いながらも何度も電話を元彼にかけてみたのでした。
非常識な時間帯であることはわかっています、でもそうせざるを得なかったのです。


空しくコールが聞こえますが、当然のことながら出ません、何度目かの電話はつながりました。しかし、彼女の呼びかけには当然のことながら反応はありません。


やがて、「ツーツー・・・」電話が一方的に切れたことを告げる音が聞こえてきました。


彼女は、もう一度受話器を置いて改めて電話をしてみましたが、今度は一方的に話し中のコール。きっと受話器を上げたままにしているのでしょう。


何度か繰り返してみましたが結局、2度と彼が電話に出ることはありませんでした。


ふと、時計を見ると午前1時でした。


電話ボックスを出てみると1台のタクシーもありません。


仕方が無いので、歩いて実家に向かうことにしました。
彼女の実家は、黒江にありました。
歩けば小一時間はかかるでしょう、まして、急に家に行っても開けてもらえるはずもありません。でも、今彼女を癒してくれるのはそこしかなかったのです。


彼女は背中に背負った重い思い出とともに、車内で話しかけた白根の姿を思い出していたのでした。


汽車にもおまわりさんが乗っているものなのね。もう一人のおまわりさんはちょっぴり怖かったけど、若い方のおまわりさんは優しそうだったわ。


彼女は、白根のことを思い出しながら、それでいて若い女性の一人歩きは危険ですから、できるだけ明るい電車道を歩きながら家に向かうのでした。(当時はまだ、和歌山市・和歌山駅から海南市駅前まで路面電車が走っていたのです。)


結婚まで考えていた男と、偶然乗り合わせた夜行列車で見かけたあたらしい男性。
二つの心が彼女の中で、諦めきれない気持ちと、新しい恋の予感とが交錯するのでした。


彼女の名前は、博美


まさか、天王寺発名古屋行き924列車が二人を結ぶ運命の列車だったとはこのとき誰が思ったでしょうか。