novel-railwayのブログ

以前投稿した小説記事をこちらでアップしていきます。

特急つばめ 愛の臨時停車顛末記 4

私は、先ほどの親子に今一度会いに行くと、二人を特ロ【現在のグリーン車】に案内して、少しシートを倒して少しでも楽な姿勢になるようにするとともに、車掌室に戻り、マイクでお医者さんが乗り合わせていないか声をかけてみるのですが、あいにく乗っていませんでした。
そこで、途中駅での停車をと思い、前述の通り黒田運転車掌と打ち合わせの上、蒲郡に列車を止めようとしたわけです。


早速、運転車掌の黒田君が通報依頼書に臨時停車の旨を書いて、通過する西小坂井駅ホームの助役にマッチ箱程の大きさの通信筒に依頼書を入れて投げてくれたのでした。
私も通過監視しながら見ていますと、フルスピードで通過する駅から投げられた通信筒は列車が通過することで巻き起こる風に翻弄されながら、ホームをコロコロと転がっていくのが見えました。そして、列車から投げられた通信筒を拾いに近づく助役さんの姿は徐々に小さくなるものの見えていました。
現在であれば列車無線を使って列車指令と直接やりとりできますが、当時はそのような事は出来ませんので、西小坂井駅長の善処を信じるしかありませんでした。
もしかしたら・・・そんな一抹の不安が頭をよぎります。
私は再び車掌室にもどるとマイクを持って、この列車は蒲郡駅に臨時停車する旨を案内しました。
少女、貴子ちゃんは苦しそうに、堅く目を閉ざして苦しそうな呼吸を続けています。
私は、お母さんに
「先ほどマイクでも放送しましたが、蒲郡駅で臨時停車させて、病院に入れてあげますから」
と言うのですが、正直、一抹の不安は残っていました。
万一、蒲郡駅の場内信号機が進行出所定の速度で通過しようとしたら非常制動をかけてでも列車を停止させようと心に決めたのでした。


愛知御津、三河三谷と列車は瞬く間に通過し、次はいよいよ蒲郡でした。
私はいても立ってもいられなくなり、デッキに出てドアを開けたのでした。
列車は依然フルスピードで走り続けています。
ああ、ダメかもしれない、やはり非常制動しか無いのか・・・そう思った矢先でした・
ググッとブレーキがかかったのでした、私は思わず体を乗り出します。
列車のスピードはどんどん速度を落とし、蒲郡駅のホームが眼前に迫ってきます。
駅員がホームにリヤカーをおいて待機してくれています。
列車は無事蒲郡駅に臨時停車したのです。


私は胸に熱いものがこみ上げてくるのを押さえながら。給仕にお願いして貴子ちゃんを抱っこして列車から降ろしてもらったのです。
この列車の後には4分半後に「臨時特急さくら」が迫っており、時間的にはかなり厳しいのですが、幸いなことに1分の臨時停車で蒲郡を再び出発、臨時停車の遅れを取り戻すべくぐんぐんとスピードを上げていきます。
と言っても、今の電車のような加速ではないので、ゆっくりとしたものですが・・・。
貴子ちゃんを乗せたリヤカーは駅員に引かれて移動していきました。
駅前には既に救急車が待機しているのでしょう。
列車に向かって何度も頭を下げてお礼を言うお母さんの姿が見えました。


続く、


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