novel-railwayのブログ

以前投稿した小説記事をこちらでアップしていきます。

鉄道公安官物語 第22話

先輩公安官に厳しい洗礼を浴びてしまった、白根。
涌井に言われてしょげてしまうような男ではないですが。
それよりも、もっと気になるのは、海南駅で降りていった女性と白根の接点ですよね?


興味津々ですね、と言うことで早速始めたいと思います。


涌井に諭された、白根は口をぎゅっと閉じて。緊張しながら涌井の後ろをついていきます。
二人の乗車した車両は、荷物車に接する普通座席車で寝台車は最後尾になりますから、結構距離があります。


白根は、涌井の後ろを緊張しながらついていきます。
蛍光灯に置き換えられた車両もあるのですが、一部の車両は電球のままであり車内は薄暗くてよく目を凝らさないとつまずくかもしれません。


特に、時々酔っ払って通路に寝る人もいるので特に注意が必要です。


白根たちが待機していた車両は、室内照明を蛍光灯に置き換えた更新車と呼ばれる車両で、室内はクリーム色に塗りたくられていました。これもGHQの置き土産とでも言うべきもので、古い客車に見られた綺麗なニス塗りの車内と比べると軽快な感じはしますが安っぽく見えるので白根は個人的には好きではありませんでした。


「白根、この車両は安心だな、何故かわかるか?」


  「何故ですか。」


「この車両は、更新修繕が終わって蛍光灯化されているから室内が比較的明るいだろう。明るいと奴さんらも仕事がしにくいというわけよ。」


  「なるほど、そういうことなんですね。」


「そういうことだ、しかし、寝台車のように室内が減灯されている車内や、古い客車は要注意だ。」


  「わかりました。先輩は公安になる前は何処にいたのですか。」


「元々貨車区の構内掛だった、あの仕事は危険が大きい仕事なんでこちらに代わったというわけさ。」


注: 構内掛とは、その昔貨車はヤードという広い場所で仕分けをされていたのだが、その仕訳された貨車にブレーキをかけていく仕事でした。
 走行中の貨車に飛び乗りまたは飛び降りる作業を強いられれるため、触車(貨車等に接触すること)事故による死傷者が後を絶たず、足を切断したり手を切断といった事故も多く、年に数回は死者が出る、そんな危険な業務でした。
一命を取り留めても、両足切断などで他の業務に回される場合もあり、今ほど障がい者年金や、遺族年金が整備されていない時代に有って、そうした被害者家族を救済する目的で始まったのが鉄道弘済会売店【現在のキヨスク】でした。
国鉄分割民営化に際して、キヨスクの物販事業はJR各社の子会社として存続し、本体は財団法人として存在します。


http://www.kousaikai.or.jp/


 そんな話をしながらも、涌井の目は車内で眠る努力をしているであろう人たちの様子を見ています。
 斜め後ろから見ていると、まるで獲物を狙うハンターのように眼光は鋭く、自分に真似ができるのだろうかと不安に思う白根でした。


 1両目の車両が終わると次の車両は、昔ながらの電球が灯る薄暗い室内でした。
薄暗いとはいえ、電球は2列に並んでいますので殆ど見えないと言うことはありません。


 それでも、さっきまで明るい車内にいただけに急には真っ暗で何も見えません。


 「白根、目はすぐ慣れるだろうから足元だけ注意しろよ。時々通路に寝てる人がいるから。」


  まさか、白根はそう思っていた矢先に躓いてしまいました。


  「うー。誰だ人の頭を蹴るのは。」


酒に酔っているのでしょう、小柄な男が床から叫びます。


白根は、すぐに謝ろうとした時、先輩の涌井が男にこっそり耳打ちしました。


 「お客さん、財布抜かれても知りませんよ。」


その言葉にびっくりしたのか、急に起きあがると、ズボンのポケットをまさぐるのでした。


  「あった。・・・・ありがとよ。」


 「お客さん、通路に寝たりしたら他のお客さんにも迷惑だし、ポケットから抜かれたりしやすいから肌身離さないようにね。」


涌井は、酔っ払いの小柄な男に話し掛けるのでした。


  白根は、失敗したなと頭を掻きながらも涌井の対処したやり方に感心したのです。


「おい、いくぞ。」


涌井の声が聞こえます。


  「はい、すぐ行きます。」


もうすっかり眼も暗さになれて十分とはいえないまでも様子がよく判ります。足元に気をつけながら白根は涌井の後を付いて行くのでした。


それでは、この続きはまた明日以降にさせていただきます。