novel-railwayのブログ

以前投稿した小説記事をこちらでアップしていきます。

鉄道公安官物語 第20話

みなさんは、大阪というと、どこを思い浮かべますか?


例えば、グリコの看板で有名な道頓堀などは、大阪の象徴のように言われていますよね。


他にも、宗右衛門町、道具屋筋と行ったミナミが大阪を代表するイメージと言えそうです。ね、さて、ミナミの拠点としては、やはり「なんば」でしょうか。
白根たちが乗務している924列車ですが、その昔、南海なんば駅から出発する列車もあったのです。


南海だけに難解な経路をたどってやってくるのです。
南紀直通の普通列車なのですが、南海本線内は普通列車なのに特急に準じる扱いということで、途中止まる駅は堺、泉大津・岸和田・貝塚・泉佐野のみ、今の特急よりも停車駅が少ない・・・停車駅で、新今宮も通過していたようです、もちろん天下茶屋も・・・。


そして、この列車に使われていたのは、みどりの客車でした。外観が緑に塗られた客車でした。茶色の客車が中心の当時の国鉄の車両に混じって連結されているだけでも目立つのに、さらにドアの上部には寝台車のように等級表示に代えて南海の文字が入っておりそれが照明で照らされていい雰囲気を出していたんですね。


ちょっと見たらグリーン車(当時の1等車)かと思わせるそんな雰囲気の車両でした。


元々南紀直通用の列車用として製造されたのですが、肝心の列車がディーゼル化したので、余剰となり南紀直通夜行列車に使われるようになったわけです。


時刻は23:21分、南海からの直通列車は、和歌山市駅に到着、すぐに牽引してきた電車はその任務を解かれ、代わりにC11形蒸気機関車と言われる小さなタンク式機関車が電車と反対側に連結されるとすぐに発車、紀和駅を目指します。


南海からの直通列車は5分ほどで、紀和駅に到着、昭和43年まではここが和歌山駅と名乗っており名実ともに紀勢本線の始発駅だったのですが、今では和歌山駅の看板を元東和歌山に譲ってしまいましたが、客車区など主要な施設は引続きこの駅構内にあるので構えは小さいとはいえ重要な位置付けの駅なのです。


ここで約5分停車し、時間調整を行います。22:36分、和歌山駅に先に到着するとその2分後には白根たちが乗務する126列車が和歌山駅に到着するのです。


そんなお話しを、白根は先輩から乗務の途中で聞かされたのでした、初めての乗務、本来ななら仮眠など御法度なのですが、車掌室の一角で座っていますと、規則的なジョイント音は、子守歌のように眠りに誘ってくれます。


時間にして2,3分でしょうか、自身が南海からの列車を連結している、昭和38年頃のこの列車に乗務している夢を見たのでした。


白根は、見慣れない緑色の客車が連結されるので見とれていたら、先輩公安官の涌井の怒声が響きます。


「白根、何ボーっとしている、巡回に回るぞ」


 「はい、すみません。」


慌てて、和久井の後ろにつき従って再び、すっかり夜間モードになった車内を歩くのでした。


そんな時でした、


「おい、寝るなんて100年早いぞ」、と怒鳴り声が聞こえて頭を小突かれて目が覚めました。


 「あ痛た・・・。あ、先輩おはようございます・・・。」


「何寝ぼけているんだ」


涌井も叱ろうと思ったのですが、苦笑するしか有りませんでした。


白根たちを乗せた列車は、ちょうど紀伊駅を通過する頃でした。


白根、「寝たらダメじゃないか」


「スミマセン、丁度先輩から聞いていた、南海の客車の乗っている夢を見ていました。」


また、何とも珍妙な夢を見たものだなぁ・・・。涌井も苦笑するしか有りませんでした。


さて、本来の白根達が乗務している列車では、現在は南海からの直通列車はありませんが、南海からの列車を受ける形で、一両だけ和歌山市~和歌山間を運転してくるのでした。
ここで、新宮行きの先頭に連結されて新宮まで一緒に行くのでした。


涌井に連れられて、和歌山駅を出てから巡回を始めるのです。
いよいよ、掏りたちが動き出す時間でもありますから、当然でしょうか。
涌井は、もう一度白根に掏りの手口などを話始めるのでした。


和歌山駅では、思ったより多くに人が降りてしまい、1両に数人しか乗っていない車両もあります。


最後尾の寝台車も何人か和歌山駅から乗り込んだようですが概ね静かなものであり時折狭いベッドからはいびきも聞こえてくるのでした。


約15分の停車時間は、荷物の積み下ろしと連結作業であっという間に過ぎて・・・23時50分、924列車は新宮方面に向けて静かに走り出すのでした。

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鉄道公安官物語 第19話

> そんな時、白根が待機する乗務員室のドアをノックする音が聞こえます。


> 先輩公安官の涌井ではなさそうです。
>
> さて、そのノックの主は誰だったのでしょうか。
>
> それは、意外な人物だったのです。


ドアのノックに気がついた白根は叫びました。


「どうかされましたか。どうぞ。」


そういって、白根は乗務員室の引き戸を開けたのです。
そこに立っていたのは、先ほどデッキに佇んでいた女性でした。


白根はひとまず、彼女を今まで自分が座っていた腰掛に座らせると白根自身は通路にでて話し掛けるのですが


「どうされたのですか?」


  「・・・・・」


「気分でも優れないのですか?」


  「・・・・・」


白根にしてもこうした場合の対処なんて学園で学んでいませんから、どうすればいいのかと・・・悩んでしまいます。


彼女は黙りこくったままでしたが、やがて声を絞り出すように、小さな声で話し始めました。


  「実は、さっきおまわりさんに声を掛けられなかったら、飛び降りるつもりでした。」


  「声を掛けられたので、びっくりして戻ったのです。」


白根は、その話にびっくりしてしまいました。
本当に自殺を考えていたことに驚きを禁じ得ませんでした。


慌てて先輩公安官の涌井に伝えようとしましたが、彼女はそれを制止するべく、白根に対してさらに話しかけるのでした。


  「私、愛を無くしてそのまま絶望に打ちひしがれていたのです。」
  「将来を一緒にと思っていた人に裏切られたのです。」


彼女は、今まで胸のつかえを吐き出すように、白根にぶつけるのでした。
白根はただ頷くだけでした。


年のころは24から5歳といったところでしょうか。
小柄なそれでいて、美しいお嬢さんでした。


「それは大変でしたね、・・・」


白根はそれ以上の言葉は出てきませんでした。
しばらく二人の間に沈黙が流れました。


「・・・・・」


時間のすれば1分ほどでしょうが、二人の間には10分も20分もの長い時間が流れたように感じられました。


しばらくして、彼女の思いが吹っ切れたのか、ぎこちなく笑うと。


  「おまわりさん、ありがとう。思いのたけを話したら、少し元気になりました。」


そういうと、乗務員室から出て行こうとします。


「お客さん、貴重品は必ず肌身放さず持っていてくださいね。スリ被害が多発していますからね。」


そういって、出来るだけ明るく送り出そうとする白根


  「ありがとうございます、おまわりさんもお仕事頑張ってくださいね。」


すっかり、話したこと心が晴れたのか、少し表情が明るくなった彼女は、そういい残すと、客室に消えていきました。


おまわりさん・・・・か。


公安官なんだけどな。お客さんにすれば「鉄道公安官」といってもピンと来ないだろうな。


そんな独り言を呟く白根でした。

鉄道公安官物語 第18話

白根たちの乗務している列車の様子を一緒に覗いて見ましょう。


> 「白根、公安の仕事はこれからが本番だぞ。和歌山過ぎたら寝台車を中心に警戒するからな。」
> 先輩公安官に言われて改めて気を引き締める白根だったのです。


白根たちを乗せた列車は、東岸和田も通過しまもなく熊取を通過しようとしていました。
熊取駅は現在のような高架駅ではなく、和歌山よりに小さな駅舎のある駅でした。
改札口には駅員が所在なく立っているのがちらりと見えました。そして駅舎の向こうには自転車預かりと書いた看板だけが白熱灯に照らされてぼんやりとですが見えています。
しかし、それ以外は何もないのです。光がないのです。


駅前の僅かな空間以外は畑と空き地が広がっているだけですから当然といえば当然なのですが本当に闇の中を走っているそんな感じなんです。


いまでこそ、海側には関空の灯りが、そしてりんくうゲートタワービルが見えますが、当時はそんなものは一切ありません。
多分デッキに立っていたらそのまま夜の闇の石炭袋に吸い込まれるそんな感じを受けるのではないでしょうか。


時折、眠気を断ち切るように「ピー・・・・・」


甲高い汽笛が闇を裂いていきます。
単調なそれでいて規則正しいジョイント音は、眠りを誘うメトロノームのようにも聞こえました。


カタタン・カタタン・カタタンタン・・・。
そして、少し明るく感じたと思ったら、和泉砂川もの駅を通過しているところでした。
ここを過ぎて次の和泉鳥取までがかろうじて町並みがあるかなと言う感じで、大阪と和歌山の国境の境界いえ、県境の駅、山中渓は本当に字のごとく山の中にあり、夜などは誰も降りる人すらいない、そんなところでした。そして列車は和泉山脈へ分け入っていくのでした。


おしまい・・・・。


じゃないって。


山の中を走るのですから、本当に何もありません。


白根は、先輩の涌井に言われて乗務員室で待機していたのですがどうも落ち着きません。


初乗務の緊張感がそうさせるのでしょうか、あれこれ思い悩むことばかりです。


車掌室の小さな落とし窓を開けて空を見上げてみました。
列車は国境を越えて、いえ県境を越えて紀ノ川平野が見下ろせる山脈の頂上付近を走っていました。


「綺麗だ・・・・。」


白根は咄嗟にそんな言葉を漏らしていました。


「ああ、なんと美しい夜空なんだ。天の川というけれど本当に空にミルクを流したように一面に星空が川のように天空に横たわっている。」


都会では決して見れないそれはとても綺麗な綺麗な夜空でした。


子供の頃に聞いた牽牛と織女の天の川伝説の話をふと思い出していました。


「天の川か・・・・」


そう言えば子供頃は笹にお願い事を書いて川に流したっけ・・・


子供の頃の楽しかった頃の思い出が蘇ります。


そんな時、白根が待機する乗務員室のドアをノックする音が聞こえます。
先輩公安官の涌井ではなさそうです。


さて、そのノックの主は誰だったのでしょうか。


それは、意外な人物だったのです。


この続きはまた後程に。

さて、このお話の続きは明日にでもさせていただきます。

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