novel-railwayのブログ

以前投稿した小説記事をこちらでアップしていきます。

特急つばめ 愛の臨時停車顛末記 2

9:00定刻に東京駅を出発した下り特急つばめ号は、有楽町の日劇を横に見ながらどんどん加速していきます。


私は、車内放送を済ませると、車内改札に向かうのでした。
私と同僚の専務車掌黒木君と手分けして、車内を回ることにしました。
車内は、用務客と思しき人が大半で、2等車では、国鉄パスを持った管理局の課長クラスや、会社の重役、時には国会議員も乗車しており、特急つばめは2等車も3等車もほぼ満員と言える乗車率でした。
私は普通車から順次検札をしていたのですが、3等車に乗車していた親子連れに声をかけられました。
聞けば、子供の気分がよくないとのこと、そこで私は、列車内に常備の酔い止めの薬を手渡したのでした。


横浜9:27定刻出発した特急つばめの次の停車駅は、沼津、しばし時間的にも余裕が生まれます。
やはり乗務中に乗客の安全確保は車掌の仕事ですので、特に気になると言えば、やはり東京から乗った親子連れでした。
体調が優れないと言っていた子供は、母親に寄り添って眠っているようでした。
私の姿に気づいた母親は軽く会釈を返してくれます。


私は、「お子様の様子は如何ですか。まもなく浜松ですが、浜松で下車することもできますよ」と、お伝えしたのです。


母親は、「問題はなさそうですのでこのまま大阪まで行けそうです」と申し出たので、私も安心して再び専務車掌室に戻るのでした。
そんな会話が交わされて、ふと窓外に目を見やるとホームに「しずおか」の駅名が目に入ってきます。


時計を見ると定時通過でした。
さすがに特急の運転士【甲組】たちのプロ意識は確かなものだと感心しながらも、専務車掌室で、しばし休息です。


静岡を通過すれば、あと30分ほどで浜松に到着です。私は到着10分ほど前から案内放送をおこなうため、マイクに向かいます。


長らくのご乗車お疲れ様でした。列車はあと10分で浜松に到着いたします。
浜松では3分停車いたします。
お忘れ物無きよう、後者のご準備お願いいたします。


1等車の乗客には年配のボーイがお客様の荷物をまとめて、準備している頃でしょう。
つばめガールも、下車するお客様に声をかけている頃かも知れません。


やがて列車は、12:34定刻に浜松駅に到着、駅ホームでは駅弁の売り子に混じって、ハモニカ娘がハモニカを籠に入れて立っています。
日本広しといえども、駅でハモニカを買えるのは浜松駅だけでしょう。


東海道線の電化が浜松までだった頃は、機関車の付け替え時間の間にラジオ体操が流されており、さすがに乗務中はラジオ体操はしないものの、ホームを見ると何名かの乗客がホームに降りてラジオ体操をしている人を見かけたものでしたが、それも昔の物語になってしまいました。


そんな浜松駅も3分の停車で、再び大阪ヘ向けて歩を 進めるのでした。
ここまでは順調だったのですが、この後・・・件の母親からの申し出で事態は急変することとなります。


そう、東京出発直後に薬を渡した女子の体調が急変したのです。


ということで、ここから先は次回に書かせていただきます。

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