novel-railwayのブログ

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鉄道公安官物語 第12話

さて、いよいよ先輩職員と警乗をすることとなった白根、どんなドラマが待ち受けているのでしょうか。


白根が、初めて乗務することになったのは、紀勢本線の夜行列車924レ名古屋行き(後の南紀でした。当時は普通列車でしたので愛称はついていません。


天王寺を22:40分に出発する新宮方面に向けて走るこの列車は、寝台列車を連結した普通列車であり、堂々としたものです。


阪和線区間は、和歌山まで停車しませんので、列車内はいきなり長距離列車の雰囲気が漂っています。ということは、掏りや置引き犯も実はたくさん乗り込んでくる可能性があるのです。
置引き犯の場合、洋服掛けに上着を掛ける振りをして他人の財布を抜き取る等の芸当?を行う場合があり、気をつけてみていないと目の前で堂々と犯行に及ぶ場合もあります。


先輩公安官に、掏りの手口や、常習犯の顔写真などを見せられるのですがすべて一度に覚えられるものではありません。
頭が混乱してきそうです。


「まぁ、最初からすべて覚えるのは無理だろうが、少しづつ覚えていくように。」


  「はい、わかりました。」


白根は、先ほど教わった掏りの手口などを思い返しながら自分ならどうして捕まえてやろう・・・そんな妄想を膨らませてみるのでした。


「白根、そろそろだぞ。」


先輩公安官の声にふと我に返った白根は、


  「はい、すみません。」


急いで駆け出していくのでした。


 初めての警乗です、いやがうえにも白根の心臓はバクバクしてきます。
それを察してか、先輩公安官が話し掛けます。


「緊張するなよ、誰でもそうさ。はじめはな。」


そう言われると少し気が楽になるのでした。
改めて帽子をかぶりなおし、玄関前の姿見で装備等の確認をした二人は、静かにドアを開けて列車が止まる1番ホームに向かうのでした。


1番・2番ホームは長距離専用ホームとして昼間時は「特急・くろしお」や「急行・きのくに」が並ぶのですが、この時間帯では23:30発の「夜行急行・きのくに」もまだ到着していないので、少しさびしく感じます。


そんな中一人気を吐いているのが、駅の中にある小さな屋台、天王寺名物駅そばです。


今は、店の中に入ってしまいましたが、その昔は、3番・4番ホームの間付近で営業しており3人か4人のおばちゃんたちがてきぱきと捌いていました。


現在なら食品衛生法云々でまず認められないだろうと思いますが当時はそれが許されたのです。


先輩職員が白根に話し掛けます。


「白根、少し腹ごしらえしていくか。」


そういって、先輩公安職員は際ほどの駅そば屋に向かい、「そば」といって、金をおばちゃんに手渡すのでした。
おばちゃんもよく心得たもので、ちらっと顔を見ると何も言わずにさっさと「そば」を作ると先輩職員に手渡します。なんとも見事なというかあっけに取られていると、おばちゃんが声を掛けます。


若い兄ちゃんは、「うどん」・「そば」どっちだい。


白根は反射的に、「うどん」と言っていました。


さて、この天王寺駅の駅そば、阪和線の乗客と長距離の列車の両方の腹を満たしていたのでかなり忙しいんですよね。


殆ど、切れ目無くお客さんがやってくるのでゆっくりと食べていることも出来ません。
気が付けば、先輩はすでに食べ終えようとしています。


「おい、まだ食べてないのか、早くしろ。」


先輩の声が聞こえます。しかし、まだやっと一口食べたところなのに・・・・。


2口、3口食べた後でそのまま容器をおばちゃんに返して先輩の後に続くのでした。


さて、さて、中途半端に食べたものですから余計に空腹感を感じる結果となった白根ですが、初日の活躍はどうなったのでしょうか?


こうご期待

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