鉄道公安官物語 第19話
> そんな時、白根が待機する乗務員室のドアをノックする音が聞こえます。
> 先輩公安官の涌井ではなさそうです。
>
> さて、そのノックの主は誰だったのでしょうか。
>
> それは、意外な人物だったのです。
ドアのノックに気がついた白根は叫びました。
「どうかされましたか。どうぞ。」
そういって、白根は乗務員室の引き戸を開けたのです。
そこに立っていたのは、先ほどデッキに佇んでいた女性でした。
白根はひとまず、彼女を今まで自分が座っていた腰掛に座らせると白根自身は通路にでて話し掛けるのですが
「どうされたのですか?」
「・・・・・」
「気分でも優れないのですか?」
「・・・・・」
白根にしてもこうした場合の対処なんて学園で学んでいませんから、どうすればいいのかと・・・悩んでしまいます。
彼女は黙りこくったままでしたが、やがて声を絞り出すように、小さな声で話し始めました。
「実は、さっきおまわりさんに声を掛けられなかったら、飛び降りるつもりでした。」
「声を掛けられたので、びっくりして戻ったのです。」
白根は、その話にびっくりしてしまいました。
本当に自殺を考えていたことに驚きを禁じ得ませんでした。
慌てて先輩公安官の涌井に伝えようとしましたが、彼女はそれを制止するべく、白根に対してさらに話しかけるのでした。
「私、愛を無くしてそのまま絶望に打ちひしがれていたのです。」
「将来を一緒にと思っていた人に裏切られたのです。」
彼女は、今まで胸のつかえを吐き出すように、白根にぶつけるのでした。
白根はただ頷くだけでした。
年のころは24から5歳といったところでしょうか。
小柄なそれでいて、美しいお嬢さんでした。
「それは大変でしたね、・・・」
白根はそれ以上の言葉は出てきませんでした。
しばらく二人の間に沈黙が流れました。
「・・・・・」
時間のすれば1分ほどでしょうが、二人の間には10分も20分もの長い時間が流れたように感じられました。
しばらくして、彼女の思いが吹っ切れたのか、ぎこちなく笑うと。
「おまわりさん、ありがとう。思いのたけを話したら、少し元気になりました。」
そういうと、乗務員室から出て行こうとします。
「お客さん、貴重品は必ず肌身放さず持っていてくださいね。スリ被害が多発していますからね。」
そういって、出来るだけ明るく送り出そうとする白根
「ありがとうございます、おまわりさんもお仕事頑張ってくださいね。」
すっかり、話したこと心が晴れたのか、少し表情が明るくなった彼女は、そういい残すと、客室に消えていきました。
おまわりさん・・・・か。
公安官なんだけどな。お客さんにすれば「鉄道公安官」といってもピンと来ないだろうな。
そんな独り言を呟く白根でした。
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